地獄に墜ちた

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その数は百、二百では利かなくなり、中心となった細身の青年はそれらの圧に押しつぶされ、ひとたまりもないだろうと思われたが、青年はその人混みの中心にあっても決して倒れず、誰よりも良く通る太い怒声を上げていた。 それどころか、青年の手には何やら細長い鉄の棒が握られており、それが時折人混みの隙間をかいくぐり振り下ろされる度に、青年に手を伸ばす罪人達がばたばたとその場へ倒れていく。 「あぁ!ずるい!閻魔様、私にも一振りを!」 「おい、押すな!押すな!」 「どけ!俺が先に並んでたんだ!」 人が倒れれば倒れるだけ、それを見た罪人達がどっと押し寄せる。 「おい、これどうするんだよ。」 「あーあ、だから出歩かれない方が良いって俺言ったのに。」 事態の収拾を諦めた獄卒達が人混みから少し離れたところに寄せ集まり、手に持った金棒を奮うでもなく、餌に一斉に群がる蟻を見るような目つきでそれらの騒ぎを静観する。 休憩とばかりに一服を始めた獄卒も出始め、それを筆頭に寄せ集まった獄卒数十人が事態の鎮静を時の流れに任せることにした。 「どーして人間ってのはああなっちまうのかねえ」 煙草を口に啣えたまま、一人の獄卒が呟く。 「永ぁい地獄の生活だからねえ、楽しみを見いださないとって本能でも働くのさ」 「いや、地獄の生活でオカシくならねえ為の防衛本能なんじゃねえか?」     
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