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「それにしたって俺あ御免だね。幾ら不死身の体だからってよぉ、内側からドロドロに溶かされる感覚を味わうってのは」
「おい、ここらもそろそろ臭ってきたぜ。もう少し離れようや」
獄卒達がいそいそと移動を始めだした頃、確かに辺りには死臭が風に乗って漂い始めていた。
鮮血の鉄臭さとはまた違う。肉と水が腐ったような生臭さに、吐瀉物のような酸味が混ざる。
これを筆舌で語ることは難しい。現世の何処にも存在しないこの臭いは、嗅いだ者に一瞬で死を悟らせる。死という概念をそのまま香りにしたような臭いで、一度嗅いだら忘れたくとも忘れられない。
「おい、てめえら、仕事もせずに給料貰えると思うなよタコ」
ぞろぞろと移動を始めた獄卒達の背後に声が投げられる。
その声は、地獄の底から、と比喩してしまえば酷く近くなってしまうので、あえてここは現世の空の果てから響いてきたような低い声である。
「ひッ」
獄卒達はその声だけで、声の持ち主が誰かを悟り、一目散に駆けて逃げ出したい衝動にかられたが、それはできない。
獄卒達は向こうの方では、あれほど蟻のように一人の青年に群がっていた二百人以上いようかという亡者達が、全員地面へと転がっている。
その全員が、腐臭を上げて内側から外側から溶けていく自分の体に嬉々とした笑みや、喜びの譫言をあげているのが見える。
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