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「え、閻魔様…申し訳ございません…」
「申し訳ございません閻魔大王様…っ」
「お許しを」
獄卒達は振り返ったことを各々後悔したが、同時に全員がそれどころではなかった。
遠くの残酷な光景よりも優先させるべきことは、目前に仁王立ちした男の方だった。背もそれほど高くない、黒髪を短く刈り込み、眉は凛々しく、唇は薄く、瞳は日本人の代表のように細く一重であったが、それが目つきの鋭さをより一層誇張していた。狐と言うよりも市松人形顔のような顔付きをした男である。
「“お許しを”だあ?てめえら雁首揃えてよりによって誰に“減刑”を求めてんだ?ああ?」
青年は手にぶら下げていた血塗れの得物を肩に担いだ。
それは刃渡りの長い日本刀だったが、とても普通の日本刀とは言い難い代物だということが、一目で分かる。
第一、その日本刀は研がれていない。本来肉を裂くために鋭く研がれている筈の刃は太く、ただ鉄の板が刀身の形にくり抜かれただけのものに柄が取り付けられていて、正しくは日本刀と言って良いのかすら疑問に思われた。
閻魔様、と呼ばれた青年はそれにべったりと付着している血液を雑に腕の内側に挟み込むと、袖でそれを拭い去り、腰にぶら下げた鞘に収めた。
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