第二話

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 死ぬことなんて、まったく怖いと思わなかった。それよりも、この歪み切った社会に纏わりつかれて生きていかなくてはならないことのほうが恐ろしいと思った。  ひじりは一度自殺を考え始めると、その意欲がとても強い活力になっていることを感じていた。  面白いもので、死のうと決意すると急に生きている実感がわいてきたのだ。  色々とネットの情報を探っていくと、そういう考え方のことを、『メメント・モリ』というそうだ。  死を意識することで、生きている実感を濃厚に感じる合言葉のようなものらしい。  難しい哲学的なことは分からなかったが、ひじりはなんとなくこんな風に考えた。  ゴールを自分で決めたから、スパートをかけられるようになったんだ。  マラソンと同じだ。ゴールが見えない時は、ゆっくりと歩くように進む。そうしないと疲弊して動けなくなるから。  しかし、ゴールが間近になれば、重い足取りが勢いづく。  それと同じだと思った。ひじりは、きちんといつ死ぬのかを決めようと思った。  そして、自分が死ぬことで、自分を苦しめた世の中に打撃を与えたいと思った。ほんの一瞬でもいい。どうせ死んだら社会からは忘れ去られる。  生きていても同じだ。到底自分と関わりあいにならない人が、生きていようと死んでいようと、なんとも思わない。そういうものだ。     
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