第三話

1/7
前へ
/71ページ
次へ

第三話

 五月二十七日。月曜日。  ひじりは朝の駅のホームでぼんやりと立っていた。  未だに着慣れない制服はやっぱり気分が滅入ってくる。右手に下げている鞄は軽く、その中身は一通の手紙――。遺書しか入っていない。 「来週、登校してみないか」  そう、金曜日の夜に担任から提案を受けた。  金曜日の夕方、担任はまたひじりの家に顔を出し、母親と対話していた。  父は仕事から帰っておらず、母しかいなかったものの、母は父親が居ないからこそ、厳格な態度でもって担任に向き合ったらしい。  担任はこの数週間の中で、ひじりに何があったのかをクラスで聞き取りし、虐めの詳細を母に伝えて詫びを入れたのだそうだ。  そうして、母親がひじりを呼び、母と担任を交えての三者面談が行われた。  その場でひじりは、母親から学校で虐められていたのかと、改めて確認された。  ひじりは、虐められていたとは返さず、自分の身に起こったことを、ありのまま伝えた。  授業中に、声が変だと嗤われたこと。  休み時間に、自分のことを物笑いの種にされていたこと。  それがどんどんエスカレートしていったこと。  教壇の前で歌えと囲まれたこと。  息苦しくなったこと。     
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加