第三話

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 自殺をしようとしていたところを止められたのだと、その顔を見つめていて、今更ながらに気が付いた。  しかし、どういうわけだろう。  こういう場合、自殺を止める人というのは、慌てているものではないだろうか。  自分も、もし目の前で人が飛び降りようとしていたら、流石にぎょっとするだろう。  でも、この後ろから抱きしめる男性は、無表情に曇天のような眼を向けていた。  男性は、腕をほどくと、ゆっくりと冷静な様子で一歩引いた。  ガウンガウンと、けたたましい音が前方から聞こえる。快速電車が走り抜けていく。 「自殺するなら、こうしろ」  ガウンガウンと、煩い電車の音の中、その男性の声だけは妙にはっきりと聞こえた気がした。  男はそういうと、ポケットからなにやら手帳を手渡して来た。  ひじりは、ほとんど反射的にそれを受け取った。  その手帳には、このように書いてあった。  消滅自殺計画表、と――。  快速電車は走り抜け、ホームはまた僅かな停滞の空気に包まれた。
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