プロローグ

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 自殺などして、家族は悲しむのではないか? 残された家族や知人はそれで大きな精神的な打撃を受けることだろう。  稲葉は電車のこない線路をじっと見つめ続けた。  駅員の放送が、ホームに何度と繰り返される。中には退場してバスやタクシーで目的地に移動しようとする者もいる様子だった。  しかし、稲葉はその場から動かなかった。  じっと線路を見つめ、これでは矢張りダメだなと青空を仰ぐ。  雲が千切れて泳いでいた。  あの雲のように、ゆっくりと散らばり、霧散できればと願わずにはいられない。 (オレは……こんな死に方はしない)  誰にも気づかれず、居なくなったことも忘れられ、遠い先に死んでいることに気が付かれても、誰も気に留めるようなことがないように――。 (オレは……消滅自殺してみせる)  ごった返す朝の駅の中、稲葉は改めてそう誓った。
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