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ひじりは『消滅自殺計画表』を開いた。
小さな手帳はメモ帖のようで、まず最初のページにこれも手書きのボールペンの字が書き込まれてある。
『自殺するにあたり、何よりも重視すること。――それは己の死を、他者に気が付かせないことである』
そのようなことが、最初のページに記載してあった。
「なにこれ」
「自殺の流儀だ」
「流儀?」
「そう、オレの流儀。オレの自殺の計画表」
飄々した声で、稲葉は言った。
ひじりは、表情を変えず、稲葉に訊ねた。
「自殺の計画を立てているんですか?」
「そう。自殺する予定だから」
「……」
ひじりは、変なヤツだと思った。しかし、自殺を考えるような人間はすべからく『変人』なのかもしれない。
自分だってさっきまで死ぬ予定で動いていた。『声』が『変』な自分は、周囲から『異常』だとレッテルを貼られている。
そして、そんな自分だからこそ、この稲葉のことを『変人』なんて呼べる資格はないと自然に思った。
「自殺をするのに……」
「ちょっと待った。あんまり自殺自殺言ってると、周りから注目を浴びる」
「はあ?」
「『自殺』のことは、『おでかけ』って言うようにしよう」
「……『おでかけ』するのに、こんな計画表を作ったんですか?」
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