プロローグ

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プロローグ

 立つ鳥跡を濁さず、その言葉を深く共感するようになってどれほどの月日が経ったのだろうか。  そんなことをぼんやりと考えて、無造作に投げ捨てていたスマートフォンを手に取り、稲葉(いなば)八尋(やひろ)は家を出た。  スマホの画面に表示されていた時刻は八時十分。家から歩き駅まで行くと丁度出勤の電車に乗り込める。  ところが、予定通りに辿り着いた稲葉は、駅の混雑ぶりに動きを止められてしまった。  駅員が放送で繰り返し連絡をしていて、人身事故の発生により電車が遅れてしまっているのだそうだ。出勤時刻であるため周囲には不機嫌そうな顔を浮かべるサラリーマンでいっぱいだった。  稲葉はスマホを取り出し、直ぐに会社に一報を入れる。遅刻することを伝えると、短い応対だけで通話は切られた。 「飛び降りみたいだぜ」  若い男の声が耳に拾えた。  ちらりと視線を向けると、そこには学生服の男子二人が、スマホの画面を見つめながら、何やら面白そうに語り合っている。  どうやら、この人身事故の原因をネットで探り、線路に人が飛び降りて自殺したことを突き止めたらしい。  高校生らしき二人の男子は、随分と楽しそうに盛り上がっていた。     
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