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ぬかるむ道を越え、生い茂る木々を斬り分け、険しい山を登りつめた先……そこには、閉ざされた巨大な石門があった。
それは遠い昔から伝え聞いていた通りの、固く閉ざされた『門』。
来るべき時が来たら自ずと開くと言われているその門は、普通の人間では目にすることすら叶わないほどの、山の高みにあった。その門の先は崖であり、石造りのそれを乗り越えても、命を失うだけのものであるはずだった。
そんな門の前でじっと佇んでいるのは、厳しい目をした1人の男だった。その身から察せられるのは、圧倒的な『戦士』の風格。短い銀髪を風に揺らし、歴戦を駆け抜けたことを証明するようなその立派な体躯は、鳥すら囀るのを止めるほどに緊張した空気を伴っている。
「……やはり、ここでしたか」
そんな男の耳に聞こえてきたのは、柔らかな声だった。男がその声にふり返ると、その声の主――長い金色の髪を風に揺らし、とてもこの険しい道のりを乗り越えて来られたとは思えない線の細い男は、何かを確信したように微笑を浮かべる。
「昨晩の夢は、やはり啓示だったのですね」
「……わからん。だが……」
先に口を開いた男とは対照的に、屈強な体躯を持った銀髪の男は、どこか諦めたように息を吐きながらつぶやいた。
「あれが啓示だったというのなら、この先に、例の『乙女』がいるのか?」
2人の目の前にある石造りの門は、今にも朽ち果ててしまいそうなほどに古びている。しかししっかりと石段を構え、まるで見えない何かによってひとの侵入を拒むかのような気配を醸し出していた。
「そうです。あなたも見たのでしょう? 光あふれる、あの夢を」
「ああ……」
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