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ひとが簡単に入ることは叶わぬと言われている険しい山の山頂にある、光に溢れた石門。そしてその先にある光の台座に眠る、清らかなる乙女。その乙女こそが、この世界を救う鍵となる――。古から言い伝えられていたその伝承通りの映像は、『選ばれた』2人が昨晩同時に見た『夢』だった。
「参りましょう。乙女はきっと、この先にいらっしゃるはずです」
そう言って金髪の男が門扉へと手を延ばすと、それは音もなく静かに――まるで2人を迎え入れる様に――開いた。
「……お迎えの準備は万端、ということか」
銀髪の男がずしりと重い一歩踏み出すと、しんとした世界にまるで音楽が流れる様に、その足元から光が溢れ出す。穏やかで優しいその光は、2人が歩みを進めるごとに筋を作り、先へと流れ、光の道を作っていく。
夢の中では、この先はただただまばゆい光で溢れていた。しかし、2人が歩み行く先に光はない。この先に進めば、通常であるなら崖の下に落ちるだけだ。けれど足元から流れ出す光の筋が、2人の来訪を祝福するかのように流れ、光に包まれた道を作り出していく。
「乙女は?」
金髪の男が、眩しそうに目を細めて先を見やる。
夢との相違点に、高まっていく緊張と鼓動。もしも所詮夢は夢であったという結果になったとしたらという一抹の不安と、この足元に広がる光が、やはり昨晩のあれはただの夢ではなかったという思いが入り混じる。
「見てください、光が……!」
崖の先、木々の狭間から垣間見えた先に在ったのは、宙に浮かぶ石の祭壇だった。2人がそこへ一歩近づくにつれ、足元から広がる光がそこへと収束していく。
これ以上進んではいけないのではないか、それとも進むべきなのかと悩んで足を止めると、2人の足元から一気に色とりどりの光が溢れ出し、崖の先にあった祭壇の上に収束していく。
そしてそれは石の祭壇を包みこむように、一瞬にして大きな球体を形取り――光の渦となって大きく弾けた。
「っ!」
弾けた光の眩しさに思わず目を閉じると、光の収束が収まる。静かになった気配にゆっくりと瞳を開いて見ると、先ほどまでは確かに何もなかった祭壇の上に、1人の少女の姿があった。石造りの祭壇の上に横たわり、目を閉じて眠っている。
「……この方が、エニク=キャブの乙女……!」
「この世界を救う乙女、か」
一糸まとわぬ姿で現れた少女を前に、2人は膝をつき、恭しく頭を垂れた。
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