一話「王様に花束を」

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一話「王様に花束を」

その日、王様は死んだ。敵が出れば武器を持って討伐する以外は生活には苦にならないこの世界を喜んで見上げていた王様は今、黒い棺の中で安らかに眠っていた。その棺の中に順番に花束が飾られていく。私も今、それを済ませたところである。私は席に戻り、しばらくそのままでいると司会が次の言葉を言い放った。 「次の王様のご紹介をさせて頂きます。王様はこちらの方です」 私が気づかない間にでも王様を募集していたのだろうか。それとも王様の息子か娘か。 「お前たちにとっては悔しいだろ?そこの王様が死んだことは?ん?どうだ?」 どこからとなく声がする。しかし正体は見えない。 「どこにいる?王様なら姿見せろや!!」という言葉を周りの冒険者たちは声をかける。 「お前らに見せる価値などない。俺が憎いか?なら、俺の正体を知れ。あぁ、そうだ。遺言書にはこう書かれている。『次の王様の正体を知った者は必ず死ななければならない。もし無理であれば正体を知らずに任務に従え』とな」 次の王様は含み笑いをしている。 「お前は誰でどこにいる?」と周りの冒険者の一人は言う。 「私はここにはいない。だが、俺の名は……そうだな。ユタにしておこうか。さぁ、解散だ。王宮にいる者たちよ、そこにいる人間を全員帰してあげなさい」 ユタと名乗る者によって私たち冒険者は王宮から追い出された。それと同時にこの世界は今、ユタが王様となる時代になったのだ。そして私たちの絶望的な冒険が始まるのもここからであった。
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