ヤクザとコック

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 シャツのポケットから取り出した煙草に火をつける。  仕事を終えた後の一服はえてして美味いものだが、その仕事が、こんな雑用とあっては話は別だ。 「おい、もう終わりか?」  そう吐き捨てながら、足元にうずくまる男たちの一人を革靴の踵で容赦なく踏みつける。  つい一分前まで、彼をガキと侮っていた男たちの末路はじつに哀れなものだった。米国留学中、現役の海兵隊員に本物の近接格闘術を師事した彼にとって、せいぜい地元で粋がっていただけの族上がりなど所詮は雑魚でしかない。 「なぁ、この俺をガキ呼ばわりした挙句、俺の大事な大事なサントーニの革靴をこんな荒事に使わせたこと、てめぇら、どう落とし前つけてくれるんだよ、えぇ?」  言いながら、足元の男の額で煙草の火を揉み消す。不味い煙草を我慢して吸いつづける道理はない。ただでさえ健康に悪い代物なのだ。  一方、額を灰皿にされた男は反撃の余力すら残っていないのか、起き上がるそぶりもない。彼を含めてここに転がる五人の男たちは皆、あるいは肘を折られ、あるいは顎を砕かれて戦闘不能に陥っている。反撃を求める方が酷な話だ。 「まさか……本当に、芹川……鬼道会の……」  その言葉を最後に、男はがくりと歩道に突っ伏した。 「最初からそう言ってンだろうがよ」
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