出会い

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「だ、だから何だよ、えぇ? てめぇは俺が買ったんだ! てめぇの親父の借金を帳消しにする代わりにな! 買ったモンをどうしようが俺の自由だろうが、あぁ?」 「あいつは父親じゃない。それに……もう死んでる」  母が殺したのだった。新がヤクザに売られた直後、母は、息子を売った恋人を包丁で刺し殺し、同じアパートの部屋で首を吊って死んだ。  理由なんか知らない。ただ、幸せだったはずの母はとにかくあの男を殺し、そして自分も死んでしまった。  「知らねぇよ! いいからさっさと拳銃を返せ! 銃口を下ろせ!」 「いやだ」 「はぁ?」 「いくら我慢したって、もう、誰も幸せになんかできない……だったら、もう、ここにいる全員殺して俺も死んでやる。……楽になりたいんだ。こんな……痛くて辛いだけの人生は、もう……だから……」  その言葉に、目の前の男はあからさまに青筋を立てる。今の言葉が余程癇に障ったらしい。 「いいぜ……だったらよ、望み通りてめぇをブチ殺してやるよ。まず銃を奪って、それから、ケツ穴がブッ壊れるまで犯し尽くしてよ――」 「何の騒ぎだ」  場違いなほど涼やかな声がふと部屋に響く。拳銃を構えたまま横目で伺うと、それは、グレーの髪を美しく整えたスーツ姿の初老の男だった。  ただ、男を包む空気は明らかに一般人のそれではない。迂闊に触れれば斬られそうな剣呑さは、ここにいる連中と同じヤクザのそれだ。が、この男には他のヤクザ達にはない独特の品がある。身につけるスーツもコートも、それに靴も、見るからに上等なブランド品ばかりだ。  そんな初老の男に、ヤクザ達が慌てて頭を下げる。 「お、お疲れ様です! 高槻会長!」  高槻会長と呼ばれた男は、おう、と鷹揚に応じると、言った。
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