出会い

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出会い

 母の死を知った瞬間、心が音を立てて崩れるのを新は聞いた。 「おい……そいつを置け、ガキ」  遠巻きに新を囲む男の一人が、及び腰のまま声を投げる。  今となっては見飽きた顔。継父がパチンコで作った借金のカタにここに拉致されて以来、新は毎晩のようにその男に暴行を加えられていた。痛く、苦しく、何より屈辱的な凌辱を、しかし新は母のためにと耐えていた。泣きもせず悲鳴も上げず、ベッドの片隅でじっと。 「こいつを置いたら……あんたはまた、俺をレイプするんだろ」  そして新は、拳銃の柄を握る手に力を込める。つい先ほど、男のジャケットから奪い取ったばかりの拳銃の筒先は、今なお男の眉間にまっすぐ向けられている。安全装置もすでに外してあった。以前見た洋画からそうした知識を得ていたのだろう。銃を奪うなり新は、自分でも驚くほど冷静にセーフティーを解除していた。  少しでも指先に力を籠めれば、目の前の男をすぐにでも殺すことができる。  人を殺めることへの恐怖や畏怖は驚くほど希薄だった。というより、何もかもがどうでもよくなっていた。  この世で唯一愛する母さん。  彼女の幸せのために、同棲する母の恋人に新は身体を捧げつづけた。自分があの男の暴力を引き受けるかぎり、母は穏やかな日々を送ることができる――だが、かりそめの幸福は長くは続かなかった。男がギャンブルで作った借金のために、新は、そのカタとして目の前のヤクザに押し付けられた。まるで使い古しのラブドールか何かのように。  それでも新は耐えていた。自分がカタとしてここに留まるかぎり、母に累が及ぶことはない。今までもそうして母の幸福を守ってきた。だから……
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