あの人の死、そして

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あの人の死、そして

 結局、あれが高槻との最後の会話になってしまった。  祭壇に祀られた高槻の遺影を見上げながら、先日の会話を思い出す。ほんの数日前の出来事が、数十年前の記憶のように今は遠い。  芸能人も利用することの多い都心の葬儀場には、この日、数百を下らない弔問客が詰めかけていた。生前、多くの業界と交友を持ち、また多くの人間に慕われていた高槻は、その交友の広さを示すようにこの日、多くの弔問客に別れを惜しまれていた。  会場は終始、重い雰囲気に包まれていた。  もっとも、それが単に葬儀ゆえの重さではないことを、鬼道会幹部の面々だけは痛いほど感じ取っていた。幹部たちのほとんどは、すでにこの後に始まる次期若頭の選出会議へと心を移している。その人選次第では、鬼道会は改革派に主導権を握られる可能性がある。  そんな中、芹川一人はぼんやりと高槻の遺影ばかりを眺めていた。  分かっている。今は嘆いている場合ではないと。なのに。 ようやく読経が済み、棺を載せた車を葬儀場から見送ったあとも、芹川の心が虚無の底から動くことはなかった。 「へぇ、黒スーツのお前も悪かねぇな」  聞き慣れた不躾な声に、芹川は現実へと引き戻される。振り返ると、なぜか嬉しそうな石塚が絡みつくような目で芹川を見つめていた。 「未亡人にそそられる間男の気持ちが分かるぜ、へへ」 「……何かご用ですか、石塚さん」  せり上がる吐き気を堪えながら、強いて冷静に問う。
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