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 数週間前までまっさらだった大きめの青いビジネス手帳を胸に押し当てて、私はひとつ、大きく息を吐いた。  ここに辿り着くまでは、困難の連続だった。計画を立てるのにずいぶんと日数がかかってしまったし、頭を悩ませる問題は、いくつもあった。今もまだ、完璧に正しいとは言いがたい部分もあると思う。  それでも今日だ。今日、やっと、前へ進む。  それほど長くはない人生だけれど、生きているのかいないのかわからない、こんな無色透明な私の生を、ようやく終わらせるときがきたのだ。  胸に湧くなんとも形容しがたい感慨を落ち着かせるように何度か息を吐きだしてから、私はワンルームの真ん中に据えた小さなテーブルへ、手帳を広げた。スケジュール帳としての機能を忘れてしまったような手帳は、真っ白で折れ目すらないカレンダー部分と反して、後ろのメモ部分だけが真っ黒に書き込まれて、厚みを増している。  私は膨らんだそのメモページを何枚かめくって一番最後に書いたページを開くと、手帳に据え付けてあったシャープペンを手に取った。  荷物の整理。家賃の振り込み。退職届の提出。スマホの解約。ピーナッツバターの購入。墓地までの地図の用意。     
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