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 瓶入りのピーナッツバターはずしりと重く、財布と手帳、ピーナッツバターしか入っていない鞄の重量をやたらと増させていた。普段食べる機会のない食品だったものの、純度にこだわって選んだそれは、スーパーにあったピーナッツバターの中では一番の高級品だ。重さは計算外だけど、最後に口にするものになるわけだし、いいものにこしたことはない。といっても、子供のころ一度口にして病院に運ばれて以来だから、善し悪しはおろか味もよくわからないのだけど。  ガチャガチャと瓶と財布が音を立てる鞄をかけて右肩にずしりとした重みを預けると、私はゆっくりと部屋を見渡した。  実家を出てから四年間を過ごしたワンルームは数日かけて荷物をすっかり整理しており、どこを見てもがらんとしている。さすがに全てを片付けるわけにはいかなかったので、いくつかの家具や家電は残っているものの、今後の迷惑料込みでと向こう二ヶ月分の家賃を振り込んでおいたから、そこは許してもらいたい。  外へ出ると、ドアに貼り付けてある「佐藤」のシールを表札板から剥がし、静かに鍵を回した。  そうしてもう二度と戻ることのない部屋へ小さく別れを告げた。     
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