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近くて楽な方法なんて、ほかにいくらだってあった。だけど、人を巻き込みかねない飛び降りも、無関係の人を殺人犯にしてしまう飛び出しも飛び込みも、絶対にだめだ。部屋で首を吊るのだって、その部屋を貸してくれていた大家さんの財産や、住人の日常を奪うことになる。そもそも首吊りなんて衝撃度の高い死に方は、見つけてくれた人のトラウマになりかねない。
散々悩んで、出し尽くして、何日もかけてやっと辿り着いたこの方法は、迷惑をかける人をゼロにはできないけれど、考えられるなかで一番ベストなはずなのだ。ショック症状の確実性はわからないけど、子供のときにほんの少量で生死を彷徨ったのだから、一晩あればきっと助からない。
私は立ち止まると、鞄からピーナッツバターの瓶を取り出して、ぎゅっと握りしめた。
昨日、通い慣れたスーパーの慣れない棚から瓶を取ったとき、周りにはわからない毒薬を持っているようで、私は妙にどきどきしていた。それは、染みついたアレルギーへのイメージのせいもあるかもしれないけれど、多分、それだけじゃなかった。
ピーナッツを初めて口にしたときはまだ両親の仲もよくて、お母さんもすごく優しかった。倒れたときの記憶はあまりないのに、病院で目覚めたときの心配と安堵でぐちゃぐちゃな二人の顔は、今でも鮮明に覚えている。不謹慎だけど、とても幸せな、私を肯定するわずかな記憶のひとつだった。
お母さんは、私の訃報を聞いたらどんな顔をするだろうか。
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