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 自殺なんて体裁が悪いとしかめる顔が、輪郭をもって眼前に浮かんでくる。朝海(あさみ)はまだ高校生だし、初めは狼狽えるかもしれないけれど、お母さん好みの正しくて賢い子だから、時が忘れさせるだろう。お義父さんは、気にも留めないかもしれない。  一人ずつ、ひとつずつ頭に浮かんでは、マッチを吹き消すみたいにゆらゆらと揺れて、消えていった。  私は瓶を再び鞄にしまうと、代わりに手帳の間から墓地までの道順を書き記した地図を取り出した。電車に乗っているときに、墓地のある辺りを遠くから見たことはあったけど、歩いて行くのは初めてだった。  大分奥まってきた道は外灯も減り、コピー用紙に印刷しただけの地図ははっきりせず見えにくい。地図を読むのは得意だからと自信を持っていたが、普段スマホのマップアプリばかり使っていた私は、明かりがないと地図が見えにくいという感覚をすっかり失念してしまっていた。  墓地までは、もう半分ほどきただろうか。ちょうど差し掛かった横断歩道が青になったのを確認すると、渡りながら、明るくなった視界に再び地図を広げた。  やっぱり、まだ倍近くの距離がありそうだ。そう思ってコートのポケットに地図をしまおうとした、そのときだった。  ふいに目が眩むほどの強い光が飛び込んできて、私の視界は、地図ごとなにかに真っ白く塗りつぶされた。     
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