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少しののちに戻ってきた視界を身体ごと眩しさに向けると、眼前には、大きな影と二つの光源が迫っていた。それが車体とヘッドライトだと気がついた瞬間、指先から痺れが走って、スローモーションみたいに景色の動きが鈍くなった。
やっぱり、人生はひとつも思うようにはいかないらしい。
こんなに無為に生き続けたのに、いざ終わらせようと準備をすると、思いもよらぬところでいとも簡単に幕が引かれるのだから。
私は迫りくる車影からほんの少し目を逸らして、視界の隅で歩行者用信号機を確認した。
青だ。その色に安堵して、短く息を吐く。最低最悪なパターンの飛び出し自殺ではないことに、私は心底ほっとした。
計画とは違うけれど、これはこれでよかったのかもしれない。なんにせよ、これでようやく終わりにできる。優秀じゃない私には、こういう不運みたいな死に方が、きっとお似合いなんだ。これならお母さんにも、体裁がわるいと嘆かれなくてすむだろう。
ほぼ車道側へ身体を向けていた私は、前から全身に受けるであろう衝撃を覚悟して、鞄の紐を強く握りしめて目をつぶった。
ドン。 衝突音が鼓膜を揺らしたのと同時、思いの外軽い衝撃を受けた左半身と一緒に、私の身体は歩道側へと弾き飛ばされた。その一瞬あとにはなにかの影を飲み込むように真っ白なライトで視界はいっぱいになり、唸るような大きな音と風圧にさらに押されて、私は勢いのままアスファルトを一回転した。
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