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私は、身体の痛みも忘れて、未だ震えたままの手で力任せに鞄をひっくり返した。けれど、今日解約してしまったスマホは当然どこを探したって入っていない。辺りを見回してみても、こんなところに電話ボックスなんて、あるわけもなかった。
「ど、どうしよう……」
どうにかして救急車を呼ばなくては。焦る気持ちでなんとか立ち上がろうと手をついたとき、
道路の方から、間延びした高い声が耳に飛びこんできた。
「えー、もしかしてなんかまずい感じ? そんなに強く押したつもりなかったんだけど、怪我しちゃった?」
その声に弾かれて顔を上げると、薄暗い横断歩道の中腹に、ピンク色の塊が見えた。赤信号に照らされて、膝に両腕をのせてこちらを見ているピンク色の塊は、高校生くらいの黒髪の女の子だった。
よかった。生きているし、意識もある。
私は一気に全身の力が抜けそうになるのを必死に立て直して、女の子の方へ意識を戻した。
電話ボックスを探す前に、彼女を避難させなくては。動けないのか、女の子は未だ赤信号の真ん中にうずくまったまま、こちらをじっと見ている。深夜とはいえ、ここをもう車が通らないとは言い切れない。事故のあと後続車に再度轢かれて命を落とすことだって、よくあることだ。
立ち上がると、打ちつけたおしりや膝が少し痛んだけれど、幸い重い怪我はしていないようで、問題なく脚は動いた。
「あ、あの、怪我は……あ、と、とりあえず、歩道の方に」
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