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妹はさして残念そうでもなく――元々、唐猫だとは思っていない様子でした――あてきを見た後に紐を付けた子猫を手に取って顎の下を撫でていました。
「違うみたいですね。ただ、とても可愛らしいので飼っても宜しいですか。本当は唐猫が欲しかったのですが……」
猫は我が邸のように書物が多い場所では重宝します。舶来の唐猫でしたら、紐を付けて御簾の外には出さないようにしなければならないでしょうが。
「それは構わぬが。
さて、そろそろ下がりなさい。大事な話があるからの」
妹は怪訝な表情を一瞬浮かべましたが、あれこれ詮索しないのが我が家のような下流とはいえ貴族の嗜みの一つで御座いました。
妹とあてきは父がしつけた通りの身のこなしで立ち去って行きました。
父上は人払いを命じると、居ずまいを正して私の眼を真っ直ぐに見つめました。私も父上の眼をたじろぐことなく見返してしまっておりました。
「……その道であったのか……」
言い難そうに仰る父上の親子の情を感じさせます。
「はい。左様でございます」
羞恥を堪えて、妹が来ている間に(何もかもありのままに申し上げよう)と心に決めておりました。元服を済ませたものの未だ官位も頂いておらず、もちろん通う女性も居ない私は父上に勘当されては行く場所もない身の上で御座いました。しかし、偽りを申してこの場を逃れるようなことは、母上が亡くなってからもずっと愛情を込めて育てて下さった父上には申し訳ないような気がしたのも事実です。
「……無理やりとか……権門におもねってのことではないのか。
左大臣様の御威光に逆らえば輪が家などは、うたかたの泡のごとくだからの……」
父上のお疑いはご尤もで御座いました。
「いえ、そういうことでは全く御座いません。たとえ一夜の御戯れで有ったとしても、私は嬉しく思っております。後悔は全く致しておりません」
そう申し上げると、父上は身体がしぼむほど大きなため息をおつきになられました。
「そうか……。それならば良い。
そなたが決めたことなれば、父もそれに賛成するしかないだろう。亡くなったそなたの母も都一の美しき姫だった。その母譲りの容貌を左大臣様もお目に留められたのであろうな……」
「お殿様、一大事で御座います」
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