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学者の家に相応しく使用人にも静かにするようにとの家訓めいたものが有りましたが、父の一の女房でもある、常陸の常にはない慌ただしい声や絹音が響いて参りました。
人払いをしていると分かっていたのか、流石に部屋にまでは入って来ませんでしたが。
一体、何事が起ったのでしょうか。父上と顔を見合わせておりましたのは、ほんのつかの間のことでしたが。
「さ、さ、左大臣様の正式なご使者として家司様がいらっしゃいました。
殿に御目通りを願っておりますが、如何致しましょう」
左大臣様頼長様から、と聞いて頬が桜色に染まってしまいましたが、昨夜の宴は畏れ多くも上皇様のお招きでありました。しかし、そういう内々のご招待などは内裏で文を渡すか、頼長様の一の女房の楓殿のような上臈女房様などが持参なさるということが一般的で家司と呼ばれるその御邸の全てのことを取り仕切る方が――摂関家の覚えも目出度い下流貴族出身で、頭も気も利く御方が選ばれるのと聞いておりました。つまりは家柄というか出自についてのみ申せば我が家と同格の方です――邸にいらっしゃるなど前代未聞のことで御座いました。
「左大臣家の『家の司』は、確か大江殿であったな……。『物忌みでこもっておりますが』という詫び口上を丁重に申し上げて寝殿の客の間に通せ」
頼長様は当然ながら内裏での御職務に励んでいらっしゃる頃合いでしょう。式部丞の父上が参内しなかったのは方角が悪いと考えられた「物忌み」のせいでした。
「私一人で良いのか。大江殿は何か仰っていられなかったか」
常陸という呼び名の父上の一の女房は雲のまた上の左大臣家の御遣い、しかも略式ではなく正式な――何を仰って下さるのかまでは人の身の悲しさ故に分かりませんが――を御迎えして常になく狼狽えてしまうのも無理もないのかも知れません。
「あの、若様にもお話しがあると仰っていらっしゃいました。申し上げるのが遅くて申し訳御座いません。すっかり取り乱してしまって」
胸に手を当てて胸の鼓動を鎮めようとする様子も普段の落ち着き払った姿とはまるで別人のようでした。
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