~記憶の在処~

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翌日の、昼休み。 川上という男子は未夏の教室に来ている… どうやら先日のお詫びをしたいらしい。未夏は別にしなくていいと言ったのだが、どうしてもといってきかない。意外と頑固なんだ、と印象を改めつつ、早速本題に入る。 「おわびっていわれてもね…んー」 「なんかこう…困ってることとか!してほしいこととか!」 未夏は、ずいと食い下がってくる彼におされて適当に、 「じゃあ、飲み物1本おごりで…」 と、そこまでいいかけてから、気付く。 「そういえば、そもそも何で走ってたの?」 彼は一瞬言い淀む仕草をみせ、 「き、急に、なんのことだい?」 「それについて、詳しく聞かせてほしいのだけれど」 「なんもないって。」 これで、未夏の次の行動は決まったようなものだった。 「じゃあ、おわびってことで。これ、くらってねっ」 そう言うと、未夏から現れる弓矢―もちろん竹の子―を彼に向けて放つ。 「え、えぇ!?」 瞬間。狙いに違わず命中した竹の子の矢は川上の中に吸い込まれ、そうして彼は漫画などでよくみるハートな眼ををして未夏を射抜く。反射的に顔をそむけたが、いつまでもそうしてはいられないと彼に向き直り、話を切り出した。 「川上くん、だっけ?あんたがなんであんなに慌てて走ってたのか、きかせてもらえるかしら。」 見れば、彼の目はくりっとしており前髪は、さっぱり(そろ)えられていて、活発な印象を受ける。川上は、なぜか少し不満そうに表情を変えながらも話してくれた。 「オレ、好きな女がいるんだ…お前以外に。」 「…そう、2言目は聞かなかったことにするわ。それで?」 「ひっどいな~。まあいいけどさ」 そうして彼はぽつぽつと事の顛末を語りだした。
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