SIDE:イヌ

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SIDE:イヌ

 ぐるるる、とお腹が鳴る。  もう何日も、ほとんど何も食べていない。  食べられるものは全部、このセカイに四つある食料庫にある。  開けてしまわない限り中の食べ物が腐らない魔法の箱の中には、魚や肉や野菜が入っている。初めのうちは、塩辛くてそれを食べた犬たちはほとんどが体調を崩してしまったらしい。  でも世代をまたぐにつれて、そんなことはなくなっていった。僕は、食べ物それが浸かっている旨味が詰まった汁まで飲む。  もっとも、今となっては箱を一つ丸ごともらえることは滅多にない。食料庫のうち大きい三つは、セカイの二階部分とともにコオニたちに占領されてしまったのだ。  仲間のイヌたちは、そのことをすごく怒っている。もちろん僕も、ちょっと憎らしい。  と、その時。目の前に、魚が半分くらい残された箱が差し出される。 「.......ほらよ。食え」  顔を背けながら、ぶっきらぼうにつぶやく。彼の名は、ゴールド。  引き締まった大きめの体躯。彼はイヌとコオニの境界を破ろうとするコオニを撃退する「狩り」において、最も多くのコオニを殺してきた。彼が僕に差し出しているのは、その対価だ。  コオニは僕らと同じくらいの背丈だが、前脚の代わりに自由に使える手があり、石を削り取って作った武器を持っている。しかも彼らは、その大きさからは考えられないような怪力で僕らに襲いかかってくるのだ。  僕は狩りが苦手だ。単純に僕がゴールドたちから見ればまだまだ子イヌだからというのもあるが、僕より若くても戦果を挙げているイヌは山ほどいる。  一言で言えば、僕は臆病なのだ。怖くて、コオニたちに向かっていくことができない。だから、狩りの対価である食べ物がもらえず、最近はこうしてゴールドから分けてもらうことが多くなってきた。  でも、そんな僕だからこそ、わかったこともある。  言葉こそわからないものの、コオニたちにも色々なやつがいる。ゴールドのように強いやつも、僕と同じように臆病なやつも。だから僕は、コオニたちとも分かり合えると、そう思うのだ。
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