SIDE:コオニ

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SIDE:コオニ

 地獄の底から、声が聞こえる。  助けて、助けて、と、泣きわめく声が、なぜか俺にだけ聞こえる。  地獄の主は、俺だというのに。 「グレントさん、見てくださいよ。こんな大きいイヌっころ、久しぶりに捕まえました」  荒くれ者のジョンが嬉しそうに見せてくるイヌの死骸を見てしまい、襲いかかる吐き気を懸命にこらえる。 「食べるのか」 「もちろん蒸し焼きです!グレントさんでも、あげませんよ」  ニヤッと笑い彼がその場を離れるのを、じっと見届ける。彼の姿が視界からなくなった瞬間、俺は人気のないところに走って、せり上げてくるものを地面にぶちまけた。  食べるものなら、食料庫にいくらでもある。もともと、わざわざ占領しなくたってお互いひ孫の代まで困らない量の食べ物が、あそこにはあったのだ。  それなのに、どうして奴らはわざわざイヌなんかを食べるのか。グレントには到底理解できなかった。  携帯している水で軽く口をゆすいでから、重い足取りで廊下を歩いて執務室に向かう。俺はコオニたちのリーダーとして、一日の大半をここで過ごさなければならない。  コオニたちからは、もっとイヌを食べたい、残る食料庫も奪い取るべきだ、イヌを家畜にしては.......そんな要望や意見が、毎日のように届く。俺がそれらをぐちゃぐちゃに丸めて捨てると、秘書のバーラが顔をしかめた。 「不満か?」 「.......いえ。ですが、自分の意見が読まれてすらいないと知った民たちは、どう思いますかね」 「どうも思わないんじゃないか?奴らは文句を俺に送れば、それで満足なんだ」  バーラは大切な民を「奴ら」ですか、という声が聞こえて来そうなほど大きなため息をついた。
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