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「.......失礼します」
がちゃん、と扉が閉まる。
わかっている。圧倒的多数が何かを望むなら、リーダーは自分の考えを抑えてそれを叶えるべきなのだ。
それができないのは、俺が他のコオニとは違うからに他ならない。
俺は、イヌの言葉がわかる。
誰に教わったわけでもない。そもそもコオニたちは誰一人として、自分たちの食料が何を叫んでいるのか分からないのだ。分かっていたら、あんな酷いことができるはずがない。
だが、俺は物心ついた時から、当たり前のようにそれがわかった。初めのうちはそれを口に出したりもしていたが、成長していくにつれて、そのことは誰にも言えない秘密になった。その能力が、現リーダーの息子には不要なものだと気づいたからだ。
だが、どれだけ耳を塞いでも、口を噤んでも、俺と他の奴らには絶対に埋まらない溝がある。
ただの呻き声と、意味のある断末魔では、印象がまるで違う。俺にとってイヌは家畜でも食料でもなく、日常的に虐殺され続ける生き物だ。何度聴いたって、あの怒り、悲しみ、呪詛の言葉に、慣れることはない。
「.......いや、もう止めよう」
俺は頭を振った。余計な思考は、身体と心を蝕むだけだ。
何も考えなくていい。ただ与えられた仕事をしていれば、奴らは勝手に俺のことを「良いリーダー」だと思い込むんだ。
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