退部

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 僕も直人も理系のクラスに所属している。比較的彼のほうが成績が良い。偏りなく点を取るからだ。僕は好きな科目である英語や物理の成績は良いが、興味のない国語や社会の成績は壊滅的だ。 「祐輔はそれじゃ、結局何も考えてないのと一緒じゃないか?」 「なんだよ。直人は志望校決まってるのか? バスケに漬かった3年の春に?」 「もちろん」  まったく具体的なプランを持っていない僕に、直人は大きく胸を張った。そして大学名をいくつか挙げる。本命、滑り止め、記念受験と既に学部や学科まで考えているようだった。 「すごいな」と僕は言った。 「普通じゃないか? 祐輔ももうちょっと考えておいた方がいいぜ」 「でもウチはお金がないからな。滑り止めを受ける余裕はない。結局センター試験の結果をみて、そのときの学力からして行けそうなところを受けるだけだよ」 「適当だな」 「僕は適当人間なんだ。でないと簡単に部活を辞めたりできない」 「それもそうだな」と直人は笑った。「そろそろ帰るか」  おそらくは直人のおかげで、僕は思いがけずフレンドリーに退部後のやり取りを切り抜けられた。しかし、彼らはこれから夏の大会に向けて気合の入った練習を団結して消化していくことになる。その団結の中に僕はいない。少なからず僕は疎外感を味わうだろうし、彼らとの間に気まずさのようなものを感じるだろう。     
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