トランジションスリー

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 しかし、常識的に3度ほどしかドリブルをつかないポストプレイでこの位置からゴール下まで押し込むのというのはいかにも遠い。ターンから切り込んでくるというのも決断しきれない躊躇が感じられる。ボールを保持するのは僕よりはるかに背の高い向こうの方だが、駆け引き面では僕の方が優位にあった。  様々な選択肢が頭をよぎっていることだろう、その証拠にすぐさまアクションを開始しない。つまりは迷っている状態だ。それならパスをさばいて他から攻めるか指示を仰いでも良いだろうが、この体格差を利用せず他に回すことはビッグマンのプライドが許さないのかもしれない。  チビへのプライドが邪魔して適切な行動を取れないわけだ。ずいぶん愚かなことだが、同時によくあることでもあった。  彼は背中で僕の圧力を感じている。そこで僕は彼の右肘のあたりを軽くトトンとタップした。プレイへの影響はなく、決して反則にならない強さだ。僕と彼にしかわからない。しかしそれでも彼は右肘の感触は受け取る筈で、それは僕への意識に影響してくる。右側に僕が寄っているように彼は無意識下で解釈する。  そこで左側からのスティールを試みた。正確には、スティールを試みる素振りを見せるために手を伸ばした。動揺でも誘えれば儲けもののリスクの低い賭けである。  この試みは思いのほかうまくいき、彼の保持するボールに触れられた。真上にボールがはじかれる。彼はあわててそれを取り直す。再び背中越しにボールを保持する形になった。     
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