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迷うことなくボールを放った。ブロックはいない。指からボールが離れた瞬間成功を確信するシュートだった。ボールが他のどこにも触れずにネットを通過する音。この音を聞くためにシュートするようなものである。
トランジションスリー。もっとも相手に絶望を、味方に希望を与えられるプレイのひとつだ。
一瞬の静寂。続いて歓喜の声が聞こえる。悦に入ってカウンターを食らわないように自陣に戻りながら、僕は大きくひとつ息を吐く。
敵のタイムアウトが告げられた。60秒間の休息が与えられる。僕たちはベンチに群がり、与えられるまま汗をタオルで拭いて給水を行う。
理想的な攻防ができたため、時間は4分半以上が残っている。3点差なら十分逆転可能だ。大事なのはこの次の守備で何としても相手を止めることだ。それさえできれば、逆転はおろかまだ同点にすらなっていないのだけれど、精神的な優位性は不思議なほど大きくこちらに傾くものだ。
「狩井、交代だ」
監督のそんな声が聞こえた。信じられずに監督を見つめる。監督の目は怒りに燃えていた。僕にはそれも信じられない。
「生石、いけるな?」
残り3分で再投入される予定だった僕の親友が監督に呼ばれる。
生石直人は一瞬慌てる素振りを見せたが、素早く準備し試合に投入された。
「狩井はベンチで反省してろ」
監督は僕にそう言った。それ以外は何も言わなかった。
反省する? 何を?
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