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この日は快晴だった。
会う約束は3日前にしていて、彼女が観たい映画を一緒に観る予定だった。
部屋で待ってくれていた彼は窓の外の空をじっと見上げていた。雲1つもない碧空だと確かめるように。
彼女と目が合うと、「じゃあ」と言い出した。
それ以上の確認もなく、約束通り事が進んだ。
彼の腕の中で目が覚めた。彼が自分のことを具に見つめていたが、目が合うや否や熱い唇を落としてきた。自分が気を失ったことを知った。
何も言わない。言葉を交わしていられないほど熱くてとろけるマシュマロのような時間だった。
マシュマロは、自らが幸せとは知らずに溶けていく。マシュマロのような時間も熱に消えていく。
一方彼女に残されるのは彼に愛されたしるしのようなもの。
映画を観るつもりで来たのに、もういいという気持ちでいっぱいだった。お互いに熱に浮かされたような眼差しを絡め合わせて時間を過ごした。
もういい。例えば蜂蜜のような、甘い蜜でいっぱいになったポットの気分。これ以上入れたら溢れてしまうからもういい。邪魔もされたくない。心を携えない見知らぬスプーンとて入り込んできてほしくない。空気だってまっぴらごめんだ。
時折、熱を確かめ合うように触れ合った。
「もう虚しくない……」
一度彼がそんなことをぽこっと呟いた。
満たされる時間は熱を加えられてあっという間に溶けていく。分かっているのにまたマシュマロが欲しいと思ってしまう。
別れる前につと思い出した。スプーンは熱を伝えることはできると。だとしたら尚更ここには入ってきてほしくない。
ただし、彼のものだったらいい。彼が使っているのだったらいいなと思ってしまう。
映画は家に帰って1人で観た。
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