虚しさの話

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「じゃあ表情ってのは汚れたものか?」 「分かんない」 「汚れのない子供の目を見て虚しくなる?」 「それはならない。どうしてかな」  むしろ胸が熱くなる。  まだこの子は汚れを知らないのだと。一体どんな世界が見えているのかとわくわくする。 「汚れがないし生き生きしてるからかな? 表情がないんじゃなくて、生命感で満ち溢れているから」 「空には表情がないように見える」 「まっさらすぎて……完璧が怖いってことと一緒よ」 「完璧は不自然だってのは分かる。子供も、これから色んなことを吸収していく、まだまだ空っぽだけどいっぱい入る箱みたいだから、虚しくはならない」 「空は、もう空っぽな気がしてしまう」 「表情がないから?」 「偏見かな? 空が好きな人に怒られちゃう」  ふう、とため息をつく。 「嫌いじゃないのよ。どうせなら晴れてる空が好きだわ」 「空だっていつも笑ってたら疲れるから休憩したいだろう」  そう返ってきて彼女はくすくすと笑った。 「本当にね。意外とあなたも優しいのね」 「疲れたなら休憩すべきだよ」  それは彼の優しさと言うよりは、彼の価値観によるものかもしれない。  きっとポーカーフェイスも努めて表情を無くしているのではなくて、特に浮かべる表情がないから。     
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