虚しさの話

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 だからこそ時折笑ったり困ったり拗ねたりする彼に釘づけになる。優しい口を利かれると、それが本心かただの価値観による発言か判別できなくても嬉しくなってしまう。 「あなたはいつも疲れているの?」 「エネルギーを無理に発散したくないだけだよ」 「汚れていることは虚しさを忘れさせるものか?」 「汚れていたら、その汚れのことでいっぱいになるから」  彼女の部屋の中を取り巻くのはほとんど静寂だった。  携帯の画面と窓の外の景色を交互に見ながら、とことこ、と静かに画面に指を走らせた。  彼の返事はチャットルームのトーク画面に返ってくるのだった。  時折彼女の吐息が窓を曇らせる。 「そもそも空っていうのは『ある』んじゃなくて『見える』だけだ」 「『ある』ならいつか落ちてくるかもしれないね」 「本当にな」  彼女は肩をすくめて後ろを振り返った。  そこに大好きな恋人の彼が寝転がっていて――彼の手にも携帯が握られている。こちらに携帯を向けていた。  ベッドの上でただふたりきり。  手を伸ばせば触れられるくらい近くに。 「……この距離でチャットなんて変かしら」  今、静寂を突き破ってそっと声をかけると、携帯に隠れていた彼の顔がこちらに覗いた。 「返事を考える時間がたくさんあるから満更でもない」 「そう。……一緒に見てよ」 「見ている」 「ろくに見えてないくせに」  ぐ、とベッドが沈む。     
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