虚しさの話

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 彼にとってセックスは性欲を満たすものだと、彼女は思っていた。するかどうかは彼の、そして彼女の性欲によるじゃないかと。愛を直感的に確かめるにはふさわしい。  事実彼らは何度か肌を重ねたことがあった。両手で数えるほど。考えて言葉を交わすことはせず、ただ本能のまま許し合った。それは年相応の付き合いで、お互いがしてもいいと感じるほど愛し合えるようになったから。そうしたいと感じていると、だから関係を深めるために必要だとお互いに確認した上で。そのやり取りのどこにも天気は絡んで来なかった。  新たな確認事項だろうか。思慮深い分理屈屋な彼のことだから存分にあり得る。  彼女は何でと聞いた。今更どうして晴れた日にしかしないことにしたのか分からなくて。 「何で? 今話をしていただろ」 「話はしてたけど」 「あー……、晴れは晴れでもってことか。雲があったって晴れだもんな」 「そういうのじゃないのよ」 「まあじゃあ、雲1つない快晴の時だけ」 「……」  閉口した。絹の布を食わされている気分だ。 「今日が快晴だから?」  変なことを聞いたような気はした。  案の定彼が怪訝そうに首をひねるのだった。  しかもそれを聞いたところで全く疑念は解消されない。  きっと自分も眉を曇らせているのだろう。奇しくも快晴の空をバックに。空の濁りは自分が回収してしまったように。 「……ああ、まあそう。今日は快晴だから」  彼も考えていたのだろう。今更そんな返事が返ってくる。  静かな抱擁の中で触れ合う肌も唇も、今日はとりわけ勇ましくてくすぐったい。「快晴の時だけ」という壁を乗り越えてきたせいか。
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