虚しさの話

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 快晴の時だけ、という約束。始めてみると、決して頬返しがつかないわけでもなかった。その時間を差し引いても彼と一緒にいる時間は満天の星空のようにきらきらしているし安らぐものだったから。  お互い時間ができて、夕方から家で会えることになったこの日は曇っていた。夕方になっても雲は消えていかない。思えば1日中ずっとほの暗い。 「今日は空が憂鬱で伏せっているの。お顔が見えないの」 「今日はお前が随分詩的だ」  そんなやり取りを、携帯の画面越しにした。  彼女はこれまた専門柄、じっくり考えて物を語るのは好きで、だから面倒に思われることも多いのは自覚していた。抽象論も詩も好きだった。無造作に相手をしてくれる人が現れてから尚更。  携帯を手に考えながら、彼のベッドの上にぴったり寄り添って座っていた。  今日は襲われないという安心感があった。相手に体を預けられる。  お互いに目は各々の携帯に向いているから目が合って恥じらうことはない。身体に感じる温かさと服越しの肉体の感触だけ。  考える合間に思いついたことを投げてみる。 「新作のドーナツがまた出たから、食べに行きたい」 「雨が降っていなきゃな」 「降ってない」 「この体勢を崩してまで行きたい?」 「動きたくないのね」
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