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翔馬はズタ袋を荒々しく墓穴の中に投げ捨てた。
僕はそれを直視することができず、目を逸らす。
「別に隼人はみてなくていいよ。オレがやるから。」
「でも……」
「オレが全部やるっていっただろ。」
翔馬はスコップを手に取り土をかぶせようとしたが、
少し考えるそぶりをみせると、そのまま穴の中に飛び込んだ。
「翔馬!?」
「隼人はそこからはなれてて。」
僕は穴を覗き込む勇気もなく、翔馬の言う通り穴から少し離れて翔馬を待つ。
すると穴の中から翔馬の話声が聞こえてきた。
機械的で、少しも温かみのない声だった。
話している内容は途切れがちで、音がぽつぽつと拾えるだけだったが、
あのズタ袋になにか話しかけているようだった。
翔馬にも、父親を悼む気持ちがあったのだろうか。
僕は怖くてなにも言えていないというのに。
翔馬はほどなく穴から這い上がると、土をかけ始めた。
雨のように土が父の上に覆いかぶさっていく。
僕も最後に父になにか言いたかった。
なんでもいいから、翔馬のようになにか声を掛けたかった。
僕は足を踏み出し、穴を縁から覗き込む。
父はもう土で覆われ、姿は見えなくなっていた。
「……父さん。」
罵詈雑言を浴びせるなり、謝罪をするなりすればよかったのかもしれない。
けれども僕はそう呼びかけることしかできなかった。
―――――――僕の声に反応するかのように、少し土が動いた気がした。
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