契約の伴侶

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 それにしても暑い。降り注ぐ太陽は痛いほどだ。エジプトの太陽を甘くみていたわけではないが、それでも予想以上だったことは否めない。黎は日差しから目を守るように額に手を翳してほんの僅かな影を作った。さほど余裕を持った旅行ではない為、とりあえず目的を果たそうと首都カイロにある考古学博物館に向かった。入場券を買って中に入る。最初は石像などが展示されており、階段を昇れば、そこには黄金の部屋があった。  先程まで見ていたのは乾いた茶色のものばかりであったのに、ここには黄金ばかりが展示されている。ツタンカーメンの墓から発掘されたものらしい。  黄金のベッドに黄金の玉座。そこにはツタンカーメンと妻アンケセナーメンの姿が描かれていた。 『ツタンカーメンの黄金の棺にはね、ヤグルマギクの花が添えられていたのよ。きっと若くして亡くなってしまった夫のことを想って、アンケセナーメンが入れたんだわ』  確か妹はそう言っていたように記憶している。黎はジッとその黄金の玉座を見た。 (確かに、ロマンチックですね。きっとそれほどまでに、アンケセナーメンはツタンカーメンを愛していた……)  だが、ツタンカーメンが若くして亡くなったがゆえに、二人の関係は終わってしまう。そんなツタンカーメンの黄金のマスクはすぐに見つけることが出来た。  若く凛々しい面差し、これが妹が見たいと切望していたツタンカーメンの黄金のマスク。黎はしばしその姿に魅了された。ふんだんに使われている青はラピスラズリであろうか。  どこか一点を真っ直ぐに見つめているような眼差しに吸い寄せられそうになる。思わず手を伸ばした。その目尻に伸ばした手は、マスクを覆っているガラスに触れそうになった瞬間にハッと勢いよく引っ込められた。  自分は今、何をしようとしていたのだろう。展示物に触れようとするだなんて、そんな非常識なこと。黎は頭を振ってため息をついた。少し神秘的な空気に酔ってしまったのかもしれない。ツタンカーメンの目から視線を逸らし、黎は歩き出した。  せっかく来たのだからと展示物をじっくり見ていれば、外に出た時にはかなりの時間が経っており、空は茜に染まっていた。後々の予定を考えて、できれば今日中に一度ギザの大ピラミッドを見たいと、黎は運よく来たバスに飛び乗った。
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