契約の伴侶

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「待って、待ってください!」  走り慣れぬ砂漠に足を取られながら、黎は必死に子供を追いかける。ピラミッドから遠く離れ、漸く追いつき子供の肩に手を置いた時には、荒い呼吸をするほどだった。額から流れ落ちる汗を少々乱雑に拭う。 「もう暗くなっているのに砂漠に入るのは危険です。大人の方は一緒ではないのですか?」  黎を振り返った子供はいやに軽装だった。追いかけるのに必死でそこまで頭が回っていなかったが、上半身裸で白い腰巻をしただけの子供は浅黒い肌をしており、もしかしたら現地の子供であったのだろうかと思う。だが現地の子供であってもこのような軽装だっただろうか? しかしどちらにしても夜の砂漠に子供一人で行くのは危険だ。 「お母さんとはぐれたから、追ってきただけだ。こっちに家があるはずだから……」  黎もはっきりと地図を覚えているわけではないが、それでもこの先は砂漠がつづくばかりであったはず。そんなところに家があるとは思えない。きっと子供は方向を間違えて走ってしまったのだ。とりあえずギザの大ピラミッドまで戻れば警察に連れて行ってあげることもできる。黎は土地勘がないが、現地の警察ならば子供の言う家もすぐに見つけてあげることができるだろう。 「一度僕と一緒にギザのピラミッドまで戻りましょう。警察に連れて行ってあげますから、その方に家まで送ってもらいましょう」  なるだけ怯えさせないように黎はしゃがんで子供と同じ目線で話した。しかし子供は黎の言葉が理解できないのか、首を傾げている。 「この先は砂漠ばかりです。だから――……」 「さっきから何を言ってるんだ? ちゃんとこっちにッッ――!! ゲホッ! ゲホッ!!」  器官に砂が入ってしまったのか、子供が激しく咳き込んだ。暫くしても収まる気配がない。黎は慌てて鞄の中に入れていたペットボトルの水を子供に差し出した。しかし子供は咳き込みながらもペットボトルを見つめるばかりで手に取ることをしない。仕方なく黎は蓋を開けて子供の口元に近づけた。 「安心してください。ただの水です。変なものは入っていませんから」  口内に流れ込んだ水に安心したのか、子供は貪るように水を飲んだ。元々半分ほどしかなかった水はあっという間に無くなってしまう。思う存分水を飲んで咳も治まった子供が、物珍し気にペットボトルを見つめていた。
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