契約の伴侶

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「これは何だ?」 「え? ペットボトルを知らないのですか?」 「ぺっ……? なんて?」  ペットボトルを知らない? 黎は困惑した。いかに文化が違うと言っても、エジプトにだってペットボトル飲料くらい普通に売っている。この子供はいったい――……。 「それよりも、はやく戻りましょう。もうすっかり暗くなってしまいました」  既に周りは闇に包まれようとしている。もう少しすれば、完全に闇と化すだろう。  子供の手を取った時、沢山の足音が聞こえた。この足音は人間のものではない。何か動物の足音だ。どんどんと近くなるその音に黎は振り返る。そして目を見開いて立ち尽くした。  振り返った先は一面の砂漠。確かに自分はギザのピラミッドにいたはずで、子供を追いかけてきたとはいえ町が少しも見えないほどに離れたはずはなかった。豆粒ほどであったとしても町は見えているはずだったのに、いつの間にか自分でも帰り道がわからなくなるほどに砂漠に入り込んでしまったというのか。  陽が沈む。暗闇に閉ざされてしまう。昼の暑さが嘘であったかのように、夜の砂漠は寒くて、黎は思わず震え、腕をさすった。 「何者か、そこで何をしている」  茫然としている間に多くの足音はすぐ近くまで来ていた。数え切れないほどの人がラクダに乗っている。闇と頭から被っている布のせいで顔はわからないが、声からするに男だろう。 「この子が母親とはぐれてしまったようで。この子を追いかけているうちに恥ずかしながら僕も方向が分からなくなってしまいました。ここらに家はございますか?」  こう暗くなってしまっては子供の母親も心配しているだろう。黎は土地勘がないために警察に頼ろうとしたが、この人たちが知っているならばそのまま家に帰してあげるのが得策だ。 「……そなた、何を持っている」  男たちに守られるようにしてラクダに乗っていた男が黎に問いかけた。先程の男とは違い、若い青年の声である。推測でしかないが、恐らくは二十五・六ほどの年頃であろう。 「持っている? あぁ、これですか?」  黎は手に持っていたペクトラルを掲げた。しかしこの暗闇では小さな黄金が僅かに見える程度でしかないだろう。
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