契約の伴侶

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「そなたそれをどうするつもりだ」 「どうするも……先程ピラミッドの側で落ちていたのを見つけたので、誰かの落とし物でしょうし、カイロの警察に届けて持ち主に返してもらおうかと思っています」  そこでふと黎は気づく。 「もしや貴方が持ち主でしたか?」  そうであるならばわざわざ警察に届けずとも、彼に返してしまう方が良いだろう。そう思って黎はペクトラルを持ったまま彼に近づこうとしたが、周りにいた男たちが急に腰に佩いた剣を抜いて黎に突きつけてきた。 「えっ――!?」 「この方に近づくな!」  抜き身の剣を突きつけられて、黎は突然のことに息を詰めた。  ここは日本ではない。銃も剣も持っていて不思議ではないが、それでもこんな風に命の危険を感じることになるとは思ってもみなかった。あまりのことに心臓が早鐘を打つ。ツキッとこめかみが痛んだ。 「で、では、近づきませんから……これを渡してください。もしもそちらの方の物でしたらお返しいたしますから」  震えの治まらない手でペクトラルを一番近くにいた男に差し出す。男は黎に剣を突きつけたままペクトラルを受け取り、それを先程の若い男に恭しく渡した。若い男は指で形をなぞり、ペクトラルを確かめる。 「剣を降ろせ」  その静かな命令に男たちは戸惑いながらも剣を降ろす。しかし何があっても良いようにか、抜き身の剣は鞘に戻さず握ったままだ。  若い男は慣れた身のこなしでラクダから降り、男たちが止めるのも構わず黎の前まで来る。顔を覆っていた布を外して黎にその顔を見せた。目鼻立ちの整った、凛々しい面立ちだった。鋭い瞳は冷酷そうにも見えるが、その口元が笑みに変わると、途端に優し気な印象になる。やはり二十五・六ほどの年頃に思えた。
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