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黒く艶やかな髪が肩に零れ落ちる。癖のない真っ直ぐな髪を左側の一房だけ金の輪を一つ付けている。金の輪は側面に赤や青で細かな模様が描かれている。それはまるで、考古学博物館で見たような――……。
「不思議な服だが、砂漠に入るには軽装すぎるな」
半袖ゆえに腕を晒し、砂塵が器官に入らないようにする覆い布さえも持たない黎の恰好に若い男は呆れ、鮮やかな青に染められ、蔦のような細かな柄が縁取るように刺繍されている厚手のベールを肩にかけてくれた。柔らかな温もりに包まれて、無意識の内に強張っていた身体の力が抜ける。松明の熱も合わさって、冷え切った身体が溶けていくかのようだ。
「ありがとうございます」
礼を言って、黎は横でくつろいでいる若い男を見た。そこでハッとする。先程は暗くてわからなかった。だが、彼の服装も何もかもが黎に違和感を覚えさせた。
鋭い瞳を縁取る黒いアイラインは目尻を跳ね上げるように描かれ、瞼にはうっすらと緑のアイシャドウが塗られている。アラブの民族衣装である長衣のような白い服装であるが、長衣よりもゆったりとしており、腰には二重にベルトを巻いている。その下はスカートのようにややふわりとしていて、踝まですっぽりと覆っていた。そして何よりも目を奪われたのは、彼の首元――まるでツタンカーメンの黄金のマスクにあったような、肩まで広がる半円形の襟飾り……。
「貴方は、いったい――……」
コスプレ? とも思った。しかし先程の子供もまた、見慣れぬ恰好をしていなかったか?
「私に名を尋ねるからには、そなたも名乗れ」
「椎名 黎です」
彼が訝し気に眉根を寄せたので、もう一度黎だと名乗った。
「ではレイ、私の名はユリウスという」
ユリウス?
「カエサルと同じ名前なのですね」
何気なく言った言葉だった。しかし彼は鋭い瞳で黎をジッと見ている。まるで何かを見定めようとしているかのようだ。
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