契約の伴侶

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「そのカエサルというものが何者かはわからぬが、やはりそなたには何かあるようだ」  そう言ってユリウスは急に黎の腕を掴み、自らに引き寄せた。突然のことに逆らう余裕さえなかった黎は簡単に引き寄せられ、顎を掴まれ強制的に上向かされる。 「白い肌に、見慣れぬ服、あえて偽りなき名を告げたのに、私が誰だかわかっておらぬ無知。そなた……何者だ」  あまりにいきなりの展開で黎は混乱し、何度も瞬きを繰り返した。それほどまでにユリウスの名を知らなかったことが問題だったのだろうか。 「ただの日本人です。今日カイロに来たばかりの観光客です。すみません、僕あまりテレビとか見ませんし、世界情勢もあまりわかっていないので……もしかして有名人の方でいらっしゃいましたか?」 「何をわけのわからないことを」  何も不思議なことを言ったつもりはない。なのにユリウスはわからないという顔をする。 「本当にただの観光客です! 申し訳ありませんが、僕には貴方の言葉の方が意味がわかりません」  真っ直ぐにユリウスの瞳を見つめる。刹那の沈黙が落ちた。黎の全てを見透かそうとするその瞳が怖い。無意識の内に震えが走った。それに気づいたのか、黎の腕を掴んでいるユリウスの力が少し緩む。 「セスナ!」  ユリウスが唐突に呼べば、一人の青年が天幕に入ってきた。キビキビとした動きでユリウスに膝を折る。年の頃はユリウスより少し上くらいであろうか、肩に日除けのマントを付けたままで、その下には明らかに剣を佩いている。 「この者の服を用意せよ。脱がせた服も荷物もそなたが管理いたせ。私の側から離す気はないが、私が離れる場合はそなたが側にいよ。決して目を離さず、一人にさせるな」 「畏まりました」  セスナは置いてあった黎の鞄を手に天幕を出ていく。流石に黎は焦った。 「ちょっ――!! 鞄を返してください! あの中にパスポートも財布も入っているんです。それを取り上げられては困ります!」  思わず黎はユリウスの胸元を掴んだ。縋るように訴えるが、ユリウスは聞く耳を持たない。そうしている間に再びセスナが天幕に入ってきた。手には白い布を持っている。先程の会話から察するに服だろう。
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