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1章
周囲を囲む海に隔絶された世界、ニルヤ国の辺境の地リラは春を迎えた。しかし浜辺から吹く海風はまだ冷たい。
到は高台の下から聞こえてくる波の音を聞きながら、熊手を必死に動かしていた。寝藁を集める熊手の動きが面白いのか、足元で獏に似た白黒の毛をもつルピタスがちょっかいを出してくる。少しごわつく短い体毛が長靴と擦れて音を立てる。この獣は悪夢を餌とする不思議な動物だ。
「ルピ。せっかく扉を開けたんだから外で遊んできなよ。お前の寝床が片付かないよ。」
到が無邪気なルピタスを熊手から離そうと格闘していると、隣の獣舎を掃除している先輩飼育員テオの軽い笑い声が聞こえてきた。
「イタルも言うようになったな。初めは動物にびびって近づけもしなかったのに。」
濃い眉毛を器用に動かして到を茶化してくる。薄い顔で幼く見られがちの到には羨ましいくらいのはっきりした顔立ちだ。日によって持ち場が変わるので常に一緒に組むわけではないが、テオにはここに来た当初から色々教えてもらっている。
「動物をちゃんと触ったことすらなくて。でもようやく慣れてきました。」
「イタル。」
テオが箒の柄に顎を乗せてむすっと睨んでくる。見た目は大人そのものなのに時々ものすごく子供っぽい行動をする。「イタルもオレと同じ18歳なんだから、敬語じゃなくていいっていつも言ってんだろ。オレはそーゆーのむず痒くって苦手なの。」
「あ、ごめん。ついクセで。」
今までずっと家族にも敬語で話していたのでなかなかクセが抜けない。時折口調が元に戻ってしまいその都度テオに拗ねられている。
「オレはリラ出身だし、ただ動物が好きだからここで働いてるけどさ。お前は流民なんだよな。知らない土地にいきなり流されて来て大変だったろ。」
「うん…。でもこの動植物園に拾ってもらえて本当に助ったよ。」
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