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円の中心に立っていた支柱が突然無くなれば、周りの世界がどうなるかは想像に難くない。身を立てる術を失った周辺の世界は、大きな音を立ててみるみる壊れていってしまった。
ばらばらに壊れた破片だけを残して、三島由璃という存在だけが世界から消え去ったのだ。
しかし問題は、三島由璃という人間が完全に跡形もなく消えた訳ではなかったという所にある。
粉々になった破片の中に忍ばせるようにそっと、由璃であって由璃でないもの、が置いていかれていた。
それは三島由璃の身体に残された新しい人格、ユリという存在だった。
由璃であった頃の記憶を全て消去して、由璃という器に入れられた新しい人格。つまりは由璃の顔をした別人なのであるが。
これが三島由璃が最後に世界に遺したもの。
瓦礫の中からユリを見つけた時、人々は歓喜し、絶望した。由璃に見捨てられた悲しみに暮れ、由璃を想起させる同じ顔の別人がそこにいることで、いつまで経っても由璃という存在を忘れることができなかった。
ではこのままユリを絶望の象徴とするのか。それとも、彼女を希望の轍ととらえるのか。答えは残された人々に託されていた。
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