そして熊になる

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そして熊になる

ーカツー ーカツー ーカツー ーカラカラー  積み上げても、積み上げても、何度でも崩されるという石の山に、僕はだんだんと無になっていくんだろうなと思っていた。  小さい頃よく遊んでくれた近所の独り暮らしのおばあちゃんが、親より先に死ぬと河原で石を積まないといけないと教えてくれた。 「ひとつ積んでは父のため、ふたつ積んでは母のため」  そう言いながら、石に擦れた手足から血を滴らせ、泣きながらも、それでも石を積まねばならないのだと。  でもようやくその石の山が完成するかと思いきや、現れる鬼が鉄の杖や鞭で壊してしまう。  ああ、そうか。死んでもなお僕は囚われたままなんだろうなと子どもながらに感じていた。  ふと目が覚めるとそこには、星ひとつない暗い空が広がっていた。耳には水が流れる音だけがさやさやと入ってくる。人の話す声も、車のエンジン音も、カラスや鳩の鳴き声をはじめとする他の動物の声も、風の音さえ感じなかった。ただただ、さやさやと流れる水の音が聞こえた。  そんな空と水音にぼーっとしていたけれど、ゴツゴツと背中が痛くて、僕は呻きながらからだを転がすように起こした。あらためて周囲を見渡せば、僕はごろごろと大小様々な石が転がっている河原に横たわっていたのだ。  此処がどこかなんて全然わからなかったけれど、ふとあの独り暮らしのおばあちゃんの話を思い出したのだ。  鬼も居なければ、僕以外の子どもも居なかった。けれど、やらなくてはいけないのならさっさと石の山は完成させてしまいたいと思った。だから僕はひとりで勝手に石積みを始めたのだ。  しかしながら、これは中々簡単なことではなかった。  単純に僕が不器用なだけなのかもしれないけれど、積んでは崩れ、積んでは崩れを繰り返すばかりであった。  そんなことを何度か繰り返してからようやく僕は自分が死んだのだろうかという疑問と向かい合うことにした。  さわり心地の良い石を両手で包み込むように遊ばせながら、とりあえず川の流れに沿うように歩き始めた。  どう頭を巡らせても此処に来たという記憶は見つからないのだ。  適当に歩みを進めていると、ようやく人のかたちをした影が見えてきた。  ほっとした気持ちで思わず駆け寄った。  駆け寄ってみると其処には、人間は居なかった。  僕が見た影を辿ると其処には、“熊”が居たのだ。
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