ミエル

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ミエル

モンコウ国の東の海岸沿にある街ウランバースト。モンコウ国最大の都市で、現代において世界最高水準の都市のひとつでもある。 そんな街外れの居住区では、朝早くから鐘の音が立て続けに聞こえてくる。その音は、それぞれの家々から聞こえてきた。 緑色の髪の色をしたミエルは、微睡んだ表情のままハンドベルを片手に自宅横の牛舎へと入っていった。牛舎とはいっても、ミエルの住む家の倍の大きさはあるそれは立派な牛舎だった。 ミエルの後姿が牛舎の中に入っていくと、突然中から大きな音が鳴り響いた。 ぶりぶりぶり!もりもり!ぼとん! こんもりと出されたゼリー状の物体を見て、ミエルの表情はみるみる変わっていった。それは驚きと喜びが入り交じっためったに見せることのない表情だった。 「お、おい・・・。この色、艶、粘度、香り・・・全てがパーフェクトじゃないか!こんな空想見たことないぞ!」水色の透き通るような色をしたゼリー状の物体を見て、興奮を抑えられないミエルだった。 雌牛のウリコから放出されたこのゼリー状の物体を人々は空想と呼んでいた。 「ふんっ!朝から調子がいいみたいだな。こんなに状態のいい空想なら、何にでも使えるからむしろ悩むなぁ。炭にするには勿体ないし、そうだなぁ。粉末にして庭に撒いて花一面の庭にしてしまおうか。しかしどっちにしても乾燥させるのが手間だなぁ。」 最高の空想を手にしてご満悦のミエルだったが、牛舎の壁に掛けられた時計に目をやると一気に表情が青ざめた。 「えーもうこんな時間!!早くやらなきゃ!!」 どんな事があっても、人々は自身の活動よりも優先して空想を生み出す魔畜の世話を行わねばならなかった。それがこの国の決まりだった。 牛舎の南の壁は木の板を寄せ集めて作られたせいか、隙間が所々に目立つ。吹き付ける風は冷たいが、隙間から漏れる春の暖かな陽の光が、ミエルとウリコの体を優しく包み込んでいる。
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