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少女は目の前の湖を見る。異臭を放つ冷たい汚水の中に入れば痛みも苦しみもない世界が待っている。いつのまにかそんなことを考えるようになっていた。靴を脱ぎ、ふらふらと湖の中に進み出る。
遠くでかすかに雨音と違う音が聞こえた。どきりと心臓が跳ねる。音は少しずつはっきりと聞こえてき、それが何かを引きずっている音だと分かってくる。
なぜだか、その音がとても気になった少女は水の中に浸かっていた片足を静かに抜いて、音のする方を注視する。
「えっ……?」
少女は思わず目を見張る。
悲しげな瞳を持つ少女だった。肩までの長さの髪はカラスの羽のような深い黒色。自分と同い年か少し年下といったところだろうか。
少女はどこかの家畜を盗んできたのか、脇に後ろ足を挟んで大きな牛を引きずっていた。
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