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Larva
グランドには、野球部とサッカー部が続々と準備に取り掛かっている。
校門を過ぎ直樹が背筋を伸ばし、仕事終わりにビールを飲むお父さんの様な声を上げた
「くー!あと1週間だー!」
「呑気でいいよな。直樹は」
「呑気じゃねぇーとやってられっかよ」
直樹がまた背筋を伸ばし終えるとまた澤田との話題に切り替わった。
「で?良二なりの作戦は練ったのか?」
「・・・作戦?」
「そうだよ。澤田と距離を縮めよう作戦」
「なんだよ。そのままだな」
「だって楽しみじゃん。もし上手く行ったら俺は嬉しいし。失敗しても次行けばいいしな」
「お前な。まだ始まってないんだぞ」
「始まる前から終わりかけてたのは、どこの誰ですかー?」
直樹の一言に、少し沈黙が生まれてしまう。
沈黙を遮るように直樹が呟いた。
「俺さ。やっぱあの時悔しかったんだよな」
「・・・」
直樹の言葉の意図は、すぐにあの日の苦い思い出の事だとわかった。
中学3年になった僕は、ずっと思いを寄せていた女の子を勇気を振り絞り放課後呼び出し
直樹が見守る中、告白するも撃沈した事。
今思えば脈すらない無謀な戦いだった。
告白するか迷って辞めようとした時、告白しなきゃ一生後悔するぞと背中を押してくれた直樹。
あの日があるからこそ、直樹は僕の恋愛に対して積極的になってくれる事もわかっている。
「直樹。今度は絶対に自分の力でなんとかするよ」
自然と出たその一言に直樹は、また笑顔で答えてくれた。
「俺に出来る事なんてお前を応援する事だけだからさ。だから精一杯俺はエールを送るよ」
それから少しバイトの愚痴やゲームの話で盛り上がり、電車に乗り
一駅越えた自分達の住む街に戻ってきて直樹と別れ
20分程歩いて自宅に辿り着いた。
自宅に入り携帯を確認する。
グループチャットを確認すると20件もの未通知が溜まっていた。
直樹からの応援メールも届いていた。
想えば携帯が、これほど鳴ったのは、中学の卒業式以来ではないか。
思い出に浸りながらメールを確認すると、身に覚えのない招待メールが届いていた。
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