安定の王道

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「お前、九月んとこの……」 「しがない三河屋です。九月様が気になされて居たので顔を出しました。こちらどうぞお納めください、それではさようならお大事に」 思ったより元気そうだとはいえ、病人に対して一気にまくし立て、持っていたビニール袋を押し付けさあ帰ろうと回れ右をする。 頭の中は早く九月様の元に行きお手伝いせねば一色。 なんたる無礼。だが知り合いでもない関係で、これ以上どうすることが正解でもないので適度な距離は間違っては無い。 しかし思わぬ一連に呆気に取られた綾川は悪くないだろう。 すぐに正気に戻り、面白いと鼻を鳴らす。 「おい待て」 「はいなんですか?九月様にお礼の伝言ですか?でしたらどうぞ」 「なんで礼なんか言わなきゃなんねぇんだよ」 「九月様がお優しいことに!心配なさってお忙しい中お見舞いにこようとまでしてくれたんです。お礼の一つ言っても罰は当たらないかと。まあ強制はいたしませんが」 にっこり笑顔で言い切るその背後には、九月様こそ神、と言う文字が見えそうである。 これには綾川も押されて真顔になった。 「……様子を見に来たのはお前だろう」 「ええ九月様の名で」 あくまでも全ては九月為であり、そうではなければ自分はここには来ていなかった。 なのでもし少しでも感謝や喜びを感じたならば、それは全て九月に向けられるべきものだと言うのが、三ノ宮の主張である。 呼び止めて置いてなんだが、綾川は今まで相手にしたことのないタイプにどう対応すべきか少々悩んだ。 面白さだけで足止めしたが、中々にやばい奴なのではなかろうかと考えつつ、先程押し付けられたビニール袋を思い出し覗くと、中には見舞いの品が覗いている。 全て九月の指示だとは言うが、どうにも違和感だ。
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